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映画【ブラック・スワン】感想


ブラック・スワン [Blu-ray]ブラック・スワン [Blu-ray]
(2012/03/16)
ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル 他

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個人評価
★★★★★

バレエダンサーの物語を、バレエの知識が皆無な人間が見て果たして理解できるものなのかと不安もあったが、演目は誰もが知る『白鳥の湖』という事で素人相手にも分かりやすい配慮となっていた。
ただし、この「白鳥の湖」には悪役として黒鳥(ブラックスワン)が登場するのだという事すら知らずにこの「ブラックスワン」を見ていた私の場合、それでも置いていかれる事が多々あったのが玉にキズ。
例えば序盤で演出家のトマ(フランス男のエロスを煮しめたような俳優、ことヴァンサン・カッセル)が、思わせぶりに
「今回は古典作品に斬新な切り口で挑む」
的な事を言った後で白鳥と黒鳥二役を踊る新生プリマのオーディションを始めたもんだから、てっきり『一人二役が斬新』なんだとずっと思っていた。
後から調べたらそんなの初演の時からの伝統だった。騙された。トマめ。

ま、トマはともかく、
そんなこんなで一流バレエ・カンパニーの新しいトップの座を掴むチャンスを得たのが本作の主人公、ニナなのだ。

彼女は優秀なダンサーであり、今までの人生を全てバレエに捧げてきたようなザ・清楚。
そのため純潔を体現する白鳥は踊れても、魔性の黒鳥を踊りきることは出来ない。
いや、もちろん踊れはするのだが、トマいわく「全然エロくない」という事で、そこから極度のスランプに陥っていくのだ。

この『エロくなくて困っちゃう役』をナタリーポートマンが演じた事が、この作品を大成功に導いた勝因だと思う。
なにせこのハリウッド女優、とにかく「エロくない美人」としてお馴染みなのだ。
裸がそそる女優は数いれど、裸が痛々しい女優は彼女とアンナ・パキン辺りくらいなもんだろう。2004年の作品「クローサー」のストリッパー役は辛かった。同じ『まな板おっぱい系美女』のキーラ・ナイトレイはあんなにエロいのに。

いくら演技でとはいえ、禿げてない人が禿ヅラ被ってハゲに悩む演技をしても、なんかこちらは納得できないはず。
ジュード・ロウを出せと思うはず。
つまり彼女がこの役を演じるのはデブがデブネタを、ハゲがハゲネタを自分のギャグにして披露するようなものなのだ。ハリウッド女優なのに。
そう考えると、改めて良くぞこんなコンプレックスを晒しまくった役を演じたもんである。
女優魂お見事なり。

ただし、どうやらこの映画は『サスペンスホラー』というくくりらしいのだが、どうもそのジャンルがしっくりこない。
確かにサスペンスなのかもしれないが、別に頭を使って犯人を推理するような要素はないし、ホラーとはいえ誰かがチェーンソーでぶった切られるようなスプラッター系でもないので、血とかが駄目な人でも大丈夫。
代わりといってはなんだが、全編を通して常に背後にナイフを突き立てられているような派手さの無い恐怖に責められ続けるので、精神的にはこっちの方が辛いかもしれない。

そう、この映画は怖いわけではない、ひたすら辛いのだ。
そしてグロくはない。エグイ。

手を変え品を変え繰り広げられる、精神に良くなさそうなエグイ演出がビシビシ主人公ニナを、そしてとばっちりで我々をも苦しめていくのだ。
なんかもうそんな追い詰められてるんならあんたバレエやめちゃいなよ。と私が画面越しに助言したくなる程にニナは苦しみ、あがき、そして壊れていきながらも舞台にのめり込む。
その鬼気迫る演技に重みを持たせているのが、1年以上をかけて改造された彼女の見事な「バレリーナ体系」。

バレエは可憐な芸術作品ではあるが、演じる人間たちの体つきは下手なアスリートもビビルような筋肉マシーンだ。
脂肪ゼロの薄い皮膚の下で蠢くその筋肉たちは、肉体美とかそんな悠長な言葉で褒めてられない程に逼迫していて、もうその身体がミシリと不気味な音を立てながらも美しいポワントを決めるシーンだけで、ぞっとするような焦燥感に襲われる。
そのうち肌の下から別の生き物がチェストバスターしてくるんじゃないかとヒヤヒヤしながら見ていたら、次第にニナの体の中に蠢く黒鳥を見てしまったのは私だけの幻覚だろうか。

結果として、晴れてニナは舞台の上で黒鳥を踊りきって見せるのだが、そこで押し寄せるカタルシスたるや、正にある種の快楽の極み。
恍惚とした微笑で怪しく舞うニナの姿は震え上がる程にエロティックで、思わず性別上存在しないはずの野郎魂がおっ立ちそうな程だった。

これは決して落ちこぼれではないトップアスリートの、それ故の恐ろしいまでの生みの苦しみを描いた傑作である。
選ばれた才能を持って生まれても、なおこれほどの試練をくぐりぬけなくては一流になれない。

凡人である私には、多分そんな彼らに拍手を送ることでしか賞賛を表せないのだろう。なにせ生きてる世界がこうまで違うのだ。

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ジール

出版社で仕事をした後イタリアに住み着く。
その後帰国し所帯を持ってからは映像編集の仕事に従事中。
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